自社の世界観を演出できる単独出展がカギ
2021.6
momentum、tone / 有限会社モメンタムファクトリー・Orii(CREATIVE RESOURCE出展者)
仏具や花器などの鋳造技術が集積する富山県高岡市で1950年に「折井着色所」として創業。銅や真鍮が持つ腐食性を利用し、薬品や炎をコントロールして鮮やかに発色させる技法で、さまざまな鋳造品の着色を手がける。
2008年に社名を「モメンタムファクトリー・Orii」に改め、伝統技術を用いた1mm以下の銅板への発色技法を確立。自社ブランド「momentum」と「tone」を立ち上げ、インテリア用品、建築部材、アートワークなど新たな販路を開拓した。銅や真鍮から引出される本物の色彩にこだわり、日本の侘(わび)寂(さび)にも通じる美意識から、あらゆる空間やシーンに安らぎと落ち着きを与えるものづくりを展開する。
モメンタムファクトリー・Orii
Q. 見本市への出展を決めた理由は?
時代とともに高岡銅器の需要が減少する中、家業を立て直すべく生み出された新技法ですが、それがすぐに実を結んだわけではありませんでした。伝統産業の組合として見本市でも披露しましたが、あくまで合同出展なので自社の特色を発揮できず、大きな成果には結びついていませんでした。
そんな中、2009年にインテリア・デザインの国際見本市「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」の特別企画「ARTISAN(アルチザン)」を、デザイナーの中林鉄太郎氏に教えていただきました。「ARTISAN」では日本産地に息づく手仕事を、現代のライフスタイルに合う「商品」へつなげていくためのプラットフォームとして若手職人の参加を呼びかけていました。まさに自分にピッタリだとすぐ応募し、幸いにも審査を通過しました。初の単独出展、自分の世界観を舞台に自社製品だけで勝負できる状況にとても興奮した記憶があります。
Q. 初出展されていかがでしたか?
2カ月弱の準備期間で時計、コースターなどの既存商品以外にトレーや壁掛花器などの新商品を増やし、出展ブースの什器や装飾もほぼ自分たちで用意しました。特別企画エリアが会場入り口の目立つ場所だったこともあり、想像以上に多くの来場者に銅板真鍮板の発色に興味を持たれ見ていただけたと思います。用意したカタログ500部が2日間でなくなり、トイレや食事に行く時間も取りづらいほどの盛況ぶりでした。そんな中、出展者でもあった株式会社アスプルンド様に試作品を含めたすべての出展物を購入いただき、初めての取引先としてご契約いただきました。やはり単独出展することで、自社の表現したい世界観を演出できることが大きな成果につながるのだと確信しました。
その後、「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」には11年間出展を続けていますが、「継続は力なり」の言葉どおり新商品の発表、新規顧客の開拓にうまく活用できていると感じています。近年はパーツやマテリアルに特化したゾーン「CREATIVE RESOURCE」に参加し、建築家やデザイナー、ハウジングメーカーとのコントラクトビジネスに取り組んでいます。
Q. 今後の展望は?
2011年頃から建築業界の開拓に力を入れていますが、最近はさらにファッション業界にも進出しています。銅着色で生まれた自然な風合いを生地に転写して、抗菌マスク、トートバッグ、ネクタイやスーツ、浴衣や帯などを商品化しました。今後も様々な異業種とコラボすることで、新たなビジネスチャンスや新規開拓に繋がっていくと思いますし、伝統工芸の新しい可能性に期待しています。
また、このような取り組みが広がるにつれ、全国から求人の問い合わせをいただけるようになりました。美術や造形大学出身者もいれば異業種からの転職者などさまざまで、こうして若者に伝統技術を伝えていくことで、未来へと受け継がれていけばと考えています。